二〇一八年六月二十三日
日本台湾平和基金会の
西田健次郎(にしだ・けんじろう)理事長、
日本李登輝友の会の
渡辺利夫(わたなべ・としお)会長、
ご来賓の皆さま、会場にお集まりの皆さま、こんばんは!
これまで何度も日本を訪れるたび、皆さまから大きなご尽力をいただいてきました。
本日、この沖縄で、たくさんの古い友人の皆さんと再会出来ますことを心からうれしく感じております。
それと同時に、改めて皆さんに厚く感謝を申し上げたいと思います。
今回の沖縄訪問の大きな目的は、「台湾人慰霊碑」の除幕式に出席することにあります。
いま我々の生きる平和で安定した環境は、決して当然のごとく与えられたものではなく、むしろ多くの人々の善意の結びつきと、不断の努力によってこそ手に入れられるものです。
先週、アメリカのトランプ大統領と、北朝鮮の金正恩総書記が朝鮮半島の非核化に向けて会談し、世界の注目を集めました。
ただ、私の見方では、朝鮮半島の情勢とアジアの平和は、日本の関与なくして実現することはかなり難しいのではないかと感じています。
二〇一七年二月、トランプ大統領の就任間もなく、安倍晋三首相が訪米し、アジアの平和と繁栄の重要性をトランプ氏に説いたニュースを私は鮮明に覚えております。
アジアの人口は四十五億を超え、これは世界のおよそ半数を占めています。また、人口のみならず、その経済力も絶え間ない成長を続けています。
台湾や日本が位置する東アジアについて申し上げましょう。
二〇一七年の東アジア全体のGDPは19.4兆米ドルに達し、世界の四分の一を占めるまでになりました。これはアメリカとほぼ同じ水準に相当します。
もはや東アジア経済が世界を牽引し、アジア経済には活力が充満しているとも言えるでしょう。それと同時に、国際社会に対する影響力もますます重要性を増しているのです。
この経済的活力に満ちた地域に、数多くの新興経済体が続々と出現しています。
とはいえ、こうした国々の発展は、国際社会や地域の、平和や安定に大きく左右されることは自明でありましょう。
さて、今日の朝鮮半島の平和は、その端緒がかすかに見えたかのように感じますが、これによってアジアの平和と安定の問題は解決するのでしょうか。答えは恐らくNOでしょう。
アジアの平和と安定についてお話しするのであれば、中国の覇権主義的な膨張について触れないわけにはいかないからです。
中国はこれまでの経済発展の過程において、軍事的な影響力を駆使しつつ、もともとの大陸国家から海洋覇権国家へと、着実に拡張を続けて来ました。
さらには、太平洋から東南アジア、果てはインド洋に至るまで、中国は周辺国家との軍事的衝突や緊張さえ辞さずにその覇権主義的な野望を貫いて来ました。
中国はこの三十年来というもの、常に覇権主義的な考え方を捨て去ることはありませんでした。
二十年連続して軍事予算の成長率が二ケタを記録し、この十年来では海軍力の増強を積極的に行っているのがその証左です。
東シナ海での紛争、日中間における尖閣諸島問題、宮古島周辺の領海侵犯、南シナ海問題などの例を出すまでもなく、絶えず周辺国家との緊張状態を作り出し、潜在的な軍事衝突の可能性を生み出しているのです。
また、南アジアやインド洋一帯にかけて、中国は「アメとムチ」のやり方でミャンマーやスリランカ、パキスタンに海軍基地を建設しようとしています。
台湾海峡の安全保障については多くを語るまでもなく、度重なる中国による軍事的恫喝により、台湾は大きな脅威を受けています。
さらに中国は民間企業にまで圧力をかけ、台湾を「中国台湾」と表記するように求めています。
こうしたことから、中国が平和かつ安定した環境のなかで発展をしていかなければ、地域の平和や安定に貢献することが不可能なのは明らかでしょう。
中国が一貫して捨て去ることのない覇権主義はもはや、あからさまなものになっており、今日のアジアで最大の不安定要因となっていると言えるのではないでしょうか。
平和と継続的な繁栄を維持することは決して容易なことではありません。
そのためには、民主主義と自由を普遍的な価値として支持する国際社会との連携や、平和を愛する民主的かつ自由な国家と手を携え、専制的な独裁国家の脅威に積極的に立ち向かわなければならないのです。
日本と台湾はともに平和を愛する国家ですが、これまで台湾は、ミサイルを打ち込んで来た中国に対し、屈することなく決然と勇気を持って、幸福な生活を追求した経験を有してさえいます。
アジア情勢の大きな変化に直面する日本は、どのような道を歩むべきでしょうか。日本はアメリカに頼ることなく、日本自身が大きく変化する必要があるのではないでしょうか。
今後は、日本と台湾のみならず、アメリカも含め、共同で積極的にアジアの平和と安定ために協力していくべきでありましょう。
これまで長きにわたって積み重ねられてきた日本と台湾の交流は、様々な分野ですでに大きな成果を挙げています。
しかし、中国の覇権主義的な脅威に直面し、アジア情勢が新たな局面を迎えるなか、様々な分野における日台の地政学的な戦略もまた、いかに実現させていくかの変化が求められています。
具体的には、経済や文化交流のみならず、科学技術分野や軍事面における交流と協力関係の構築が重要とされてくるでしょう。
中国の覇権主義は、その政治体制が生み出す問題です。中国は愚民政策を施し、国民の民主的思想を抑え込んでいます。中国の人々は、未だかつて本物の民主主義や自由というものを経験したことがないのです。
私たちは中国の人々との交流や協力もまた進めなければなりません。
とはいえ、中国の独裁政権がその覇権主義的な野心をアジアにまで広げようとする企てには断固として反対します。
すでに民主主義を確立し自由を勝ち取った私たちは、人類の文明に対する責任を有しています。
同時に、中国の人々に民主主義と自由の本当の価値を伝え、民主主義あってこそ本物の自由が手に入る、ということを呼びかけていかなければなりません。
中国の覇権的な膨張を押さえ込みつつ、平和的な発展を促すため、最も重要かつ必要なものは日台の協力関係をより一層強化することに他なりません。
そのためには、日本のみならず台湾もまた、アジアの平和と安定のための貢献を積極的に行っていく必要があります。
日本と台湾はともに平和を愛する理性的な国家です。これからも引き続き、平和・民主主義・自由を守るため、ともに努力し、世界の平和に貢献していこうではありませんか。
以上で私のお話しを終わります。
本日はありがとうございました。
李登輝
二〇一八年六月二十四日
日本台湾平和基金会の
西田健次郎(にしだ・けんじろう)理事長をはじめ、
理事の皆さま、そして会場にお集まりのご来賓の皆さま、こんにちは。
本日、私はこの平和祈念公園において、戦争に倒れた台湾の人々を追悼し、皆さまとともに歴史を共有するために参りました。
まずはこの、戦争で犠牲になった台湾の人々を慰霊する記念碑を建立した日本台湾平和基金会と、それを支持してくださった多くの方々に、ひとりの台湾人として改めて感謝を申し上げたいと思います。
戦争とは恐ろしく、かつ無情なものであります。多くの尊い命がその犠牲となって失われました。
一九四五年二月、沖縄戦が始まる直前のことです。
台湾の基隆などから九〇〇トンもの台湾米が沖縄へ運び込まれ、県民へと配給されました。それによって、多くの命が生きながらえたとも聞きます。
戦争の犠牲者として平和の礎(へいわのいしじ)に刻まれた、三十四人の台湾人のなかには、もしかしたらこの食料の配給業務に携わりながら命を落とした人がいたかもしれません。
台湾人たる私は、台湾を愛し、我が人生を、台湾のために捧げるつもりでやってまいりました。
私の人生においては、戦争によって数多くの困難にぶつかることもありました。また、戦争は、生きるために如何にして積極的に生命に向き合うかということを学ぶ契機ともなりました。
「人間は歴史から学ぶ」と言われます。人類の偉大さは、その学習能力にあるのかもしれません。
つまり、先人だもの行いは、私たちが如何にして生きるべきかの道すじを示唆してくれています。先人たちは命を以て、私たちに歴史を指し示してくれているのです。
また同時に、私たち後世の人間は、先人たちが示してくれた道すじと教訓によって、学び、選択することが出来ます。
これこそ、私かこの慰霊碑に揮毫した「為国作見証」の意義なのです。
平和・自由・民主主義は、人類をよりいっそう、かつ永遠に偉大なものとするでしょう。
願わくば、私たちもまた命の尊さを以て、人間の生きる道を示すとともに、平和・自由・民主主義が後世にまで継続するよう願ってやみません。
これで私の挨拶といたします。
ありがとうございました。
二〇一八年六月二十四日
琉球台僑総会の
張本光輝(はりもと・みつてる)会長、
会場にお集まりの来賓の皆さま、会員の皆さま、こんばんは!
本日、この沖縄で、たくさんの台湾出身の皆さまとお会いできますことを大変光栄に感じております。
ご存知のように、日本と台湾の関係は非常に密接なものがあります。経済や貿易関係に始まり、科学技術、文化、観光、学術分野など、多岐にわたる分野で長年にわたり友好的な関係を築いてきました。
台湾にとって日本は技術導入や投資を呼び込む重要なパートナーであり、第三位の貿易相手でもあります。また、台湾は日本にとって四番目の貿易パートナーであり、二〇一七年における双方の貿易総額は、627億米ドルにまで達しています。
台湾の人々が最も好んで旅行先に選ぶのは日本です。昨年、日本に旅行した台湾人は456万人を記録しました。日本からも台湾へ190万人の人々が訪れ、訪台者数では第二位となっています。
近年、台湾から日本へと留学する学生数は九千人あまり、日本から台湾へ学びに来る学生は一万人を超えていると聞きます。
こうした事例を挙げるまでもなく、恐らくここにいらっしゃる皆さんは、私以上に様々な分野で日台間の密接な交流が行われていることをご存知でありましょう。
もしアジア各国が日台のように友好的かつ建設的な協力関係を築き上げることが出来るのであれば、世界はより美しく、平和になることでしょう。
ただ残念なことに、今日のアジアには巨大な不安定要因が存在すると言わざるを得ません。
ご存知の通り、二十一世紀に入り、中国は経済・政治・軍事・科学技術などの各分野で目を見張るような発展を続けてきました。ただ、ここで指摘しなければならないのは、中国の発展は「覇権主義的」だということです。決して民主的かつ自由な文明ではありません。
その結果、アジアにもたらされた動揺は、周辺国家の安全保障にとって大きな脅威となっています。中国こそ、アジアの情勢を最も不安定にしている要因だと断言します。
各国が有する軍隊は、自国の防衛のために存在します。しかしながら、中国の軍事力は対外的な膨張を続けてきました。昨年、中国の軍事費は2280億米ドルを超えています。
東シナ海や南シナ海の問題、各国の航行の安全と自由が侵害された例を挙げるまでもありません。
中国は「アメとムチ」を用いて、ミャンマーやマレーシア、スリランカ、パキスタン、果てはアフリカのジブチにまで軍事基地を建設し、それによって生じる周辺国家との摩擦は途切れることがありません。
こうした行為は地域のリスクを高めるとともに、アジア各国の軍事的支出を増加させることとなり、あたかも軍拡レースを助長することにもなるのです。
中国が掲げる「一帯一路」構想は、野心に満ち満ちた覇権主義的な計画です。
中国にとっては、自国の内部資源やエネルギー問題を解決するための方法となり得るでしょう。さらには、国際貿易上のルールを恣意的に決めることのできる格好の手段となり、他国を唯々諾々と従わせ、世界の新たな支配者に君臨しようとしているのです。
これは中国の覇権主義に見られる一貫したやり方です。しかし、結局のところ、この計画は、多くの国家を中国の経済的植民地に貶める方式と言わざるを得ません。
ここへ来て、マレーシアは中国の覇権主義が自国へ及ぼすマイナスの影響に思い至ったようです。マハティール首相は、クアラルンプールとシンガポール間を結ぶ高速鉄道建設計画の中止を決めました。
マハティール首相は東海岸に高速鉄道を敷く必要性に疑問を投げかけると同時に、高速鉄道の建設には何ら意味がなく、マレーシアに利益をもたらすことはないとしたのです。
その他にも、中国が関係する大規模計画について、全面的に再審査するとも表明しています。
中国の専制的なやり方に、最も大きな影響を受けているのは台湾です。中国は少なくとも一千発以上のミサイルの照準を台湾に向けています。領空侵犯や領海侵犯など、武力による軍事的恫喝は日常茶飯事とも言えましょう。
外交においては、あらゆる手段を講じ、台湾と国交を有する国を奪い、台湾が国際組織に参加することを妨害しています。
経済面では、台湾企業の工場から最先端の高度な技術を盗み、優秀な台湾の人材を引き抜くとともに、彼らに対し、自らの政治的思想を放棄して中国に忠誠を誓うことを強要するのです。
中国は、金・権力・色をたくみに用いて我が台湾の同胞を抱き込み、台湾内部から分断を図ろうと企んでいます。
中国は「中国の夢」という耳ざわりの良い言葉で大中華思想を喧伝し、「九二コンセンサス」を作り出して台湾の政治的、経済的な発展を抑え込んできました。
「文武両面での威嚇」「武力による統一」「ビジネス面から政治への圧力」「台湾内部からの分断」など、様々なカードが絶え間なく切られています。
中国の最終目的は、台湾を併呑し、いわゆる「中国統一を成し遂げることにあるのです。
私たちは、中国が台湾を矮小化することを恐れてはいません。私たち自身が台湾を矮小化することも出来ません。
台湾の人々のなかには、中華思想に毒され、自我を失い、希望を失くしている人もいます。ただ、中国の覇権主義に屈することは、あまりにも短絡的であると言わざるを得ないのです。
中国の覇権主義に直面する台湾は、自主的な思想を持たなければなりません。自分たちの道を歩む必要があるのです。
私は『新時代の台湾人』という著書のなかで「民主改革を成し遂げ、民主国家となった台湾は、もはや民族国家へと後戻りするべきではない」と書きました。
私たちは、幻の大中華思想から、脱却しなければならないのです。台湾の国民が持つ共通の意識は「民主主義」であって「民族主義」ではないのです。
民主主義と自由は、人類の文明にとって最も重要な価値観でありましょう。それは同時に、私たちに平和と安定、繁栄と進歩をもたらす基盤となるのです。
反対に、中国は民主主義や自由といった価値から遠く離れ、富と軍事力による、かりそめの繁栄を喧伝しています。
「偉大なる中国の夢」という言葉で国民を欺き、愚弄している中国政府の目的は、ただただ独裁体制の維持と安定にすぎないのです。
多くの中国人が言うように、中国の人々には本当の自由というものがありません。不安と恐怖というものを心の奥深いところに押し込めています。
私はここで改めて中国政府に呼びかけます。
「台湾は今も、これからも、中国の敵ではありません。中国にとって最大の敵は『本当の民主主義』『本当の自由』でしょう。そして台湾こそ、この『本当の民主主義、本当の自由』の代名詞なのです」と。
台湾が代名詞たりうることは、台湾人のみならず、全世界の自由民主国家が明確に認めていることです。
如何にして、中国の人々に永続的な民主主義と自由を与えるか、如何にして中国の人々が永遠の幸福を追求出来るか、こうした課題こそ、中国政府が積極的に考えなければならない問題ではないでしょうか。
世界の強国となりたければ、それは決して覇権主義の発露ではなく、普遍的な価値観を有する文明の実現によって成されるべきだと思うのです。
台湾の民主主義と自由は、もはや全世界が称賛するモデルにまでなっています。
私は、台湾が民主主義と自由を継続的に追求し、実践し、深化させていくことを続けてさえいけば、外来的な一切の圧力や干渉に怯えることはないと信じております。そしていつの日にか、自分たちの国の名前によって国際社会に躍り出る日が来ることになりましょう。
以上で、本日の私のお話を終わります。
ありがとうございました。
一般社団法人日本台湾平和基金会は、この度、沖縄翼友会会員さまのご厚意により、台湾出身戦没者慰霊碑建立地が決定し、2016年6月25日に無事竣工式を行うことが出来ました。多くの皆様のご支援、心より深く感謝いたします。また、塔周辺の整備のための資金が不足しており、重ねてご支援のほどよろしくお願いします。
一般社団法人日本台湾平和基金会は、台湾出身戦没者慰霊碑建立の竣工式を平成28年6月25日、糸満市平和記念公園内空華の塔の敷地内にて、無事執り行いました。
今回沖縄県に初めて建立した慰霊碑は、多く方の協力により戦後71年目にようやく実現しました。先の大戦で3万人の台湾出身の方々が戦没されましたが、現在、沖縄県の平和の礎には身元の分かったか方々はわずか34名のみに留めています。
戦中台湾の人々は日本国民として戦い尊い命を散華されたのです。
慰霊碑の維持管理及び日本・台湾の平和交流に向けご寄付をお願いしています。何卒、ご理解の上ご協力をお願い致します。
ご寄付のお願い
台湾人戦没者慰霊施設を建立する会(台湾応援会)